判断と真理 --ヴィンデルバントは3値論理への方向性を指し示したのか?--
金 正旭(北海道大学)
「現代論理学の“進歩”という意味においては、ヴィンデルバントは認識論的に動機づけられた3値論理に向かう道を示すことによってフレーゲを越える重要な一歩を踏み出したのだ、と言うことができよう」(*)。近年、ガブリエルはヴィンデルバント(W. Windelband, 1848-1915)の論理学をこのように評価した。本発表の目的は、ヴィンデルバント論理学の展開を跡づけることによって、ガブリエルのこの解釈が誤解であることを示すことである。この目的を達成するために、本発表は、「判断と真理との関係」という観点からヴィンデルバントの論理学を概観する。この作業はまた、ヴィンデルバントをその創始者とする「西南ドイツ学派Südwestdeutsche Schule」(ないし「バーデン学派 Badische Schule」)の思想の解明にも寄与することになるであろう。本発表の構成は以下のとおりである。
1. 「哲学とは何か?」(1882年)や「否定的判断論についての論稿」(1884年)といったテクストのうちに提示されている前期ヴィンデルバントの判断論には、truthbearerにかんするact/content ambiguityがあり、またそれにともなって真理の概念にかかわる混乱が見られる、ということを指摘する
2. ヴィンデルバントが『真理への意志』(1909年)において、真理をボルツァーノ的命題の性質と見なすことによって前期の理論の問題点を解決している、ということを確認する
3. 『真理への意志』ならびに晩年の論稿「論理学原理」(1912年)におけるヴィンデルバントの主張を綜合し、彼は判断作用についてもその内容についても2値性を認めていたということを示す
紙幅(時間)の許すかぎりにおいて、西南ドイツ学派とフレーゲとの関係という問題におけるいくつかのトピックにも触れる予定である。
(*) G. Gabriel, “Windelband und die Diskussion um die Kantischen Urteilsformen,” in Kant im Neukantianismus. Fortschritt oder Rückschritt?, hrsg. von M. Heinz & C. Krijnen, Würzburg: Könighausen & Neumann, 2007, S. 108.