ルイスの自然性による内在的性質の定義について
西條 玲奈(北海道大学)
内在的性質とはその性質をもつ事物のあり方にのみ依存する性質であるが、外在的性質はそうではない。例えば質量と重さという二つの性質がある。質量は内在的性質であり、重さは外在的性質とされる。事物の質量はそれ自体に備わったものだが、重さはその事物に作用する重力との関係に依存するため事物固有の性質ではないからだ。本発表は、L.ラントンとD.ルイスによる内在的性質の定義の有効性を検討する。とりわけ定義に際してルイスは彼独自の着想である自然的性質に訴えるが、この有効性を示すことが目的である。ラントンとルイスによる内在的性質の定義は、以下のような複製による直感的な説明を循環から救うことを目指したといえる。(D1) 性質Pが内在的である iff Pは複製間で異ならないような性質である。しかし複製とは全ての内在的性質を共有したものに他ならない。だが、これは明らかに循環である。
そこで彼らは試みとして、同伴性、単独性および選言的性質に訴えて基本的内在的性質を定義する。事物が同伴されるとは、その事物が何らかの完全に異なる偶然的対象と共在するということであり、また事物が単独であるとは、 その事物が何らかの完全に異なる偶然的対象と共在しないことである。内在的性質とはまず(1)同伴性や単独性から独立であるものとされる。しかしこの要件のみでは選言的性質も内在的性質として許容されてしまう。そこで特に、基本的内在的性質として、(1)に加えて(2)選言的ではなく、(3)選言的性質の否定となる性質でもないものを取り決める。これを踏まえて複製とは正確に同じ基本的内在的性質を共有するものと定義できる。その結果次の定義が得られる。(D2) 性質Pが内在的である iff Pは複製の間で異ならない iff 二つの事物が複製である時は常に、両方ともその性質をもつか、共にその性質を欠く。この(D2)がラントンとルイスによる内在的性質の定義である。
これまでラントンとルイスの定義に対してD.マーシャルとJ.パーソンズやT.サイダーらによる反論が挙げられてきた。しかしそもそも内在的性質の定義が成功していると判断されるためには、何を内在的性質として説明したいのか、またなぜ内在的性質と外在的性質の区別や概念が重要なものとなるのかを明確化する必要があるだろう。私は、内在的性質には内在性の、外在的性質にも外在性の程度を認めるのが妥当と考える。そしてこれはルイスの提案する自然的性質に程度が認められることによって含意される。その点でラントンとルイスによる内在的性質の定義が有効であることを本発表では目指す。