立花 幸司 (東京大学)
アリストテレスにおける行為について(仮題)

 『ニコマコス倫理学』3巻で展開されるアリストテレスの行為の概念分析は,多くの研究者によって「不明瞭」だと言われつづけてきました. その理由の一つには,アリストテレスが何の関心の下で行為の分析を行っているのかが判然としないということが挙げられます. 法的関心と採ることもできれば,道徳的関心と採ることもでき, さらには,アンスコム−デイヴィドソン的な行為(出来事)と意図(記述)の関係の萌芽を期待することも許容するような論述になっているのです. そして,さらに問題なのは,その点について何らかの態度決定をしたとしても,その観点の下でどのように行為概念に分析が施されているのか, すなわち,まさに「分析」され析出されているのかもまた判然としない,という点です.

 本発表では,こういった点を時間の許す限り皆さんと一緒に検討したいと思います. したがって,発表スタイルとしては,基本的にはアリストテレス解釈という形を採りますが,ギリシア語の知識は要求しません.br>
 主要なテキストとしては,アリストテレス『ニコマコス倫理学』3巻1章〜5章を扱います. 訳書は数種類あるので合うものを選ばれれば結構だと思います. また,アリストテレスの行為論について纏まった手頃なものとしましては, 高橋久一郎先生の『アリストテレス 何が人間の行為を説明するのか?』(NHK出版 2005年)があります.